2009年5月31日日曜日

★ カムイと「ベスト&ブライテスト」

例の「カラマーゾフの兄弟」読破への速報(大げさですね)です。まだ、第4巻の538ページ。去年のブログの11月18日に「10月末、ハノイへの機上で読み始めた」とあるので、いま、丁度7ヶ月たったわけだ。こんなに面白く、磁力というか、魔力に満ちた文学はそう他に無いと思いつつも、7ヶ月も掛かって”まだ一巻分と200ページ”も残ってる。本好きな諸兄で、全く時間が取れる御仁なら(リタイアの輩とか)、2週間で集中完読可能だろうね。ただし、一気に行くとこれは体力もかなり消耗するので、要注意。

さて、デビット・ハルバースタムの「ベスト アンド ブライテスト」をご存じだろうか。アメリカの良書中の最高の書のひとつであろう。タイトルは正に「最良で、最高に輝かしい人々」に在るように、1960年代初期のケネディ時代から、ホワイトハウスに集結したアメリカの最高の英知たちが、何故にベトナム戦争の泥沼に入り込み、国威が解体し、如何にしてベトナム戦争に敗北していったのかを克明に追ったドキュメントである。僕らが中学校と高校時代に新聞やテレビで名前を毎日聞いていたあのマクナマラ、バンディー大統領補佐官、ロストウ、ラスク国務長官、テーラー、それにJFK、ロバート・ケネディー司法長官、ジョンソン・・。懐かしいアメリカ政治家のトップたちの名前や肩書き。

1990年頃だと思う、僕はこの本に出会った。これを読みながら、作品の舞台である1960年代は僕が野球少年であり、またニュース好きの少年であった事とか、高校の「倫理社会」授業の試験で「倫理や哲学の授業でテストはするのは絶対おかしい」と拒否し、いつも廊下に出て行った16歳の自分を思い出したりした。当時未熟ではあるがでもそれなりに、僕には充分な未来があり、また反抗する相手も見えていた。そしてそれこそ輝かしくピュアでありたいと願い胸を膨らませていたはずだ。毎日、勉強とロックと映画に夢中だった。日本社会に明るい希望が約束されていた時代でもあった。そんな十代の頃の感覚もを確かめながら、上中下3巻(サイマル出版)という大ボリュームだが、こんなに面白い本はないとばかりに一気に読み上げた。訳は元朝日の記者で、キャスター経験もある浅野輔さんだ。

南部あがりのジョンソン(ケネディの次の大統領)以外は、東部アイビーリーグといわれるハーバードやエール、プリンストンなどをトップで卒業しMBAを取得しているエリートたち、子供の時は神童と命名された若い俊英たちが主人公の、見方を捻っていえば、”鼻持ちならない”アメリカの頭脳たちの誠実さ、愛国精神、キリスト教的ヒューマニズム、そして「無謬神話」が、アジアの小国ベトナムにすら通用しない机上の思想であり、戦略であったことを徹底して、暴いた本である。ハルバースタムの取材はおそらく、ベトナム戦争後半から、敗戦後に掛けてであるので、取材された人々が敗北に至る経緯を意外に率直に語る素直さに、この本の取材の仕方の巧みさと、アメリカ人の気質を大いに学んだ。

ご存じかもしれないが、マクナマラは、ケネディに乞われ国防長官に就任し、1968年辞任(事実上のジョンソン大統領による解任)し、世界銀行総裁に転出したわけだが、言わば「功なり名を遂げた」1990年代にベトナム戦争はベトナム人民の民族解放戦争であったとし、自分の遂行してきた「ベトナム戦争」のアメリカの位置付けである反共ドミノ理論を否定した総括を行い、さらに、北爆の直接の要因と言われたトンキン湾での北ベトナムからの挑発砲撃は実は米軍のでっち上げであり、戦争敢行のための謀略であったことをほぼ認めて、本も出し、映画でも語った。勇気ある行動というか、誰も恐くない老人になってからの行動だから、どう評価して良いか解らないが、少なくとも彼及び彼らがホワイトハウスの大統領オーバルルームの卓上に広げられた「地図」上で議論し作成した戦略と作戦で、ベトナムでは300万人以上が無惨に殺された。一方アメリカ兵も3万名が死亡し、5万人の帰還青年兵士たちが精神的に病み自殺したと言われている。この責任を彼と彼らは、どのように取るのであろうか。

先日、このマクナマラが語ったドキュメンタリー映画「フォッグオブワー(戦争の霧)」をDVDで見た。淡々とベトナム戦争の総括を吐露する80歳のマクナマラ、ハノイに行き当時のベトナムの将軍たち(ボー・グエン・ザップら)と、シビアに当時の戦争の功罪を議論するマクナマラ、どこか上手に切り抜けを計る老獪マクナマラ・・。もの凄く「面白い」映画であった。実はこの映画を見て、先ほどの「ベストアンドブライテスト 全3巻」を読了した当時の感想と、また同時に僕の1960年代中葉を想起したのであった。マクナマラはケネディに抜擢される直前は、フォードの新任社長であった。この俊英が将軍たちが待ちかまえる国防省に持ち込んだのはコンピュータによる管理と、数値解析による戦争戦略の立案方法であった。

学習していないのだろう、アメリカ政府はイラク戦争でも同様のでっち上げと、コンピュータによる「ホワイトハウスのオフィスで行う戦争」を繰り返しているとしか思えない。MBAの英知たちが描き出す寸分の迷いもない戦争計画。きれいな戦争。民衆が見えない戦争。アジアの、イスラムの、民衆と文化と歴史を顧みない戦争が、また、また、繰り返され敗北しつつある。マイノリティーのオバマは、白人アイビーリーグのエリートでうち固められている議会やホワイトハウスの中で、さらにアメリカの軍需産業と米軍一体となった政治的総攻撃に、果たして対抗できるのか。

カムイ伝は言わずと知れた白土三平による「忍者武芸長」と並ぶ日本漫画史に燦然と輝く傑作長編である。三島由紀夫に単なる西洋ヒューマニズムと批判された手塚治虫が、深く嫉妬したと言われるのが、この狂気の天才白土三平である。法政の田中優子さんが、カムイ伝とカムイ外伝の全集を使った授業を近年行っているらしい。言わばもう一つの「江戸学」といえるものだろう。それをまとめた「カムイ伝講義」(田中優子 小学館)を昨日から読み始めた。田中さんは15年ぐらい前に松岡正剛さんに紹介されて、何かのパネリストにお願いする際、電話をして話しただけだが、その後テレビでのコメント等も時々聞いていて、いつも見識のある答えに好感が持てる着物姿の艶やか女史だ。

この本のリードタイトルに「カムイ伝の向こうに広がる江戸時代から、いまを読む」とある。なるほど。まだ、出だしと、途中のつまみ読みしかしていないから、安直には言えないが、カムイ伝の半分ぐらいと、カムイ外伝のほとんど読んだ僕としては、咀嚼しながらじっくり読み始めている。アメリカは言うまでもなく、先住民であるモンゴロイド系アメリカインディアンの数百万人を大虐殺した上に建国された清教徒国家である。悲しい運命的歴史を背負っている。その凄惨な西部開拓は日本の江戸後期から、明治になった頃であり、それは1900年頃まで続いている。おいおい、そんな近代まで、自国で民族圧迫やジェノサイドやってる国って他にない。僕の祖父でも1885年生まれだ。古い話じゃあないぜ。

世界有数といわれる豊かな文化に溢れた江戸。この江戸時代には多様な知恵と技術を持つ百姓、商人、職人が、地方や裏町にはマタギやサンカ、穢多、忍びの者、遊女、河原者等など多様な人々が居た。カムイ伝にはその日本社会を克明にかつ、社会的な価値観でなく生き物としての視点をもち、広大な構想に基づいて描写されている。今でも根強い差別の根幹を白土は、言わば唯物史観的なリアルさで何者も恐れず、描ききっている。1967年には大島渚が忍者武芸帳のコマのスチール写真のモンタージュだけでで完成させた映画「忍者武芸帳」を世に問うている。10・21国際反戦デーが全世界で闘われて、ベトナムへのアメリカの侵略に抵抗する若者たちのインターナショナルな連帯が一気に生まれた年である。

ベトナム戦争後アメリカ人たちも自分を見つめるために自分探しを始めるが、連続テレビドラマ「ルーツ」で、黒人はアフリカのクンタ・キンテ少年にたどり着きはしたが、片や”ホワイト”たちの見つめる作業あるいは自省の旅は、ほとんど無いように日本からは見える。5万人のジャングルからの帰還兵が自殺したと聞くが、ホワイトハウスに居た政治エリートで自死した者はいない。アメリカの戦争決定者や政策決定者たちがなぜ、古い歴史をもつアジアや中近東の国の民衆から学べないのか。学ばずして、戦争を始めるのか。それも、原爆や東京大空襲のように市民殺戮を推し進めてきたのか。敢えて言えば、アメリカの政治エリートたちが、カムイ伝に、否カムイ伝に書かれている視点の様なアメリカ大陸歴史書に巡り会っていない不幸が、そうさせるとしか言いようがない。君たち、ネイティブのカムイを見たか?第二第三のジェロニモを見たか!乱暴にはしょると、政治エリートやMBA教育では「市井」とか「民衆」とか、地べたに這い蹲って仕事をし、生活をしている人々の人間性や知恵、文化が埒外として排除されているからだ。フランスなどは、大分違う。パリ国立行政学院などの政治や官僚エリートたちから、革命的レギュラシオン派などが今でも生成している。

キリスト教特にピューリタン的原理主義が横行するアメリカにあって、僕らが高校生時代の1960年代中葉でさえ(たった40年前だよ)、南部の大多数の黒人は、白人と同じレストランにも入れず、バスの席まで車内で隔離され、大学まで入学を制限していた彼の国は、チョムスキーやアントニオ・ネグリなどが「帝国」(帝国主義じゃあないよ)と命名したネットワーク型の資本主義最終形へ行くのだろうか。あるいは、この世界同時不況が、偶然にもアメリカの致命的瓦解から、救い出すための産業構造大変革の切っ掛けになるのであろうか。マスコミでは余り指摘しないが、オバマ時代になり、アメリカ経済は一部とはいえ、昔で言う社会主義政策を実行している。

「ベスト アンド ブライテスト」の読了後、ハルバースタムの作品は大分読んだ。「ネクストセンチュリー」「フィフティーズ」「メディアの権力」かな。どれも卓抜な作品である。因みに彼も、ハーバード大卒業である。

■《ブログご高覧感謝》
ついでに僕の人気・ページビュー多いタイトルと日付け、紹介しておきます。
以下は、毎日100人以上の”人気”ページです。ぜひ、ご高覧ください。
多いのは一日1400名閲覧もあります。

・2008年11月 赤塚不二夫先生のこと
・2009年1月 「ジャクリーヌ・ササールとかBB(べべ)とか」
・2009年5月 ゲバラの映画「モーターサイクルダイヤリーズ」
・     5月 カムイと名著「ベストアンドブライテスト」
・2009年10月「救うのは太陽だと思う」
・2009年12月「爆笑問題の失笑問題」・・・・・1日で1440のPV
・2010年1月 阿倍仲麻呂はハノイの知事である。
・2010年2月 MAC・MAC / 立松和平さんの死。
・2010年3月 「サンデープロジェクトの打ち切り秘話」
・2010年12月 映画「ノルウエーの森」の失態
・2011年1月 「お笑いの山崎邦正のベトナムアルバイト」
・2011年3月 メイドインジャパンから「Made by JAPANESE」の時代認識へ
3月 「大震災をベトナム人は語る」
・2011年4月 映画「東京物語・荒野の7人・シンドラーのリストほか」
これからも、よろしく、ご高覧ください。阿部正行

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