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2009年2月13日金曜日

BIA HOI

ビアホイと読む。ベトナムの何処にでもある居酒屋と言えばいいだろう。牛、豚、鳥、魚、豆腐あたりを素材にした多様なバリエーションが何でもある、つまり、それらを焼いたり、煮たり、蒸したり、炒めたり、あるいは香辛料のきつさのバリエーションとか、また、熱いベトナムでは夏でも鍋もあり、真夏でもそれをアチチあちちと汗かきながら宴会で囲むグループもけっこう多い。で安いのだ、どんなに食べて飲んでも、一人500円だろうな。まあ言わば、ベトナムの男にとってアフター5には欠かせない居場所ということだ。ここには日本のビアホールなどと同様にビール会社の系列があるようだ。料理の味もインテリアもスタッフの制服も統一性などほとんど無視で、ビール会社の看板だけがその系列を表している。

今日、日本の有力企業グループの一社が来て、学生と交流会。いわば面接に至る前のイントロといえるものだ。それが終わり、ビールを軽く飲みに行きたいのに、本日は金曜日と言うことで当校教職員も冷たいもので、誰も付き合ってくれないし、ハノイの妻も娘が受験で忙しいし、私はあなたの妻でなくほんとの友人だ。でも、娘はあなたも娘と言っていい、とか疲れにまかせて、いきなり分けわかんない日本語を連発して、21時にバイクを駆って、オフィスから出て行った。ふむふむ。と言うわけで、ビアホイである。今日は日頃のビアホイでなく、ちょっと新規を探そうとサッカー場の反対に10分ぐらいいったら、真っ黄色のイスが並んでいるビアホイがあった。

豚のスープ、空芯菜の炒め物、蒸し鳥とビールを発注して、軽いアルコール度の生ビールの杯をぐい〜と進めた。満員ではない環境で、周りの見渡しもきき、4列向こうに外人が2名この汚い店に不似合いだがちょっと慣れた佇まいでビールの杯を空けていた。オーストラリア人かな。アメリカ人だろうかよくわからんね。そう思って見ていると片方の悠然と構えて飲んでいる中年の風情は元エリザベス・テーラーの夫(2回夫になったはず)のリチャード・バートンの弟風な人物だ。そう、ラッセル・クロウに似ている。と言うよりまさしく彼だと断言したいぐらいに同一人物なのだ。背格好もね。でも、ラッセル・クロウがまさかベトナムに、さらにこんなションベン臭いBIAHOIに居るわけないし、撮影のベトナムロケという話も伝わっていないしなああ。もう一人は細身で背が高いウディ・アレンばり。ラッセル・クロウのマネージャーかな?デルのノートPC使ってのふたりの議論ははてしない感じ。僕はいつもの癖で持参の文庫本のページをめくって彼らから視線を活字に移した。

活字はこういっていた。「ミーシャは考え込んだ。きっと今日も見張って居なくてはならない。ここか、サムソーノフ家の門のところか。」カラマーゾフの兄弟3巻の161ページ目だ。そうか見張って居なくては・・か、と外人二人に見張り風視線を戻しつつ鳥を「塩レモン」にさっと付け口へ。続けて空芯菜をニュックマムにちょと端だけ付けて、またほうばる。で、また外人を見やったら、彼らがなんと僕目指して(目指しているとしか思えない近付き方)歩いてきた。ものの15秒ぐらいだろう。何せ狭い舗道上の店舗内だ。座っている僕。180はあるだろうクロウ氏とユーモラスさが本家より不足気味のウディー・アレン氏が僕の眼前に屹立。デカイ。彼らは僕に抗議に来たんだと咄嗟に思った。思えば、文庫本に目を落とす前に僕は失礼にもジロジロ彼らを見ていたからだ。なにしろこの環境が不釣り合いな二人だからね。逆に僕はというと、彼らからすれば、想像するにどうもベトナム人じゃあないし、コリアかジャパンか中国か、不快な中年アジアン野郎がジロジロ見ていやがる、とでもいいたそうな面構えで、いきなり、このお二人は大きなお尻を僕のテーブルの塩化ビニールのへなちょこイエローイスにどかっと納め僕に向き合った。

お前は”何人か”というので、堂々、「日本人です」と応戦。更に君はここで何してる、とか畳みかかるので、読書しながら、夕餉をたのしんでいるのでございます、と悠揚迫らぬ態度で、スターに申し出た。「ジロジロ見るな」とか野暮を言わないのが世界的スター。その上、僕の読書傾向に切って入ってきた。多分、何を読んでいるのかと僕には聞こえた。ドストエフスキーの文学ですと、僕はすぐさま言った。カラマーゾフのなんとかなど、英語でいえるはずのなく、ともかく世界一の天才作家の名前を丁寧にスターに奉じた。しかし、クロウ氏は、ええっ・・という感じで、彼にとっては三半規管に音声が到達する前に既にまったく理解できないという渋みの表情を美顔にうっすら漂わせた。この作家の名前はカタカナ英語的発音ではまったく通用しないようだ。

幸運にも、光文社亀山郁夫訳文庫本には、ロシア語でドストエフスキーという記載があった。この初老美男子はたしか「アアウワ」といかいって、破顔一笑し「ふ〜む」と思考する表情を見せた。で、恐れ多くもまた僕に「YOUは何者ですか」と言った。間違いなく僕の素性を聞いたようだった。大スターが僕風情の素性を聞いてどうするの、と60になった老練な僕は、僕なりにそう単純じゃあないぜ外人さん、と言わんばかりに「あなたの笑顔は、世界を魅惑するスターだけが保ちうるものですね」といったものだ。そんな英語俺って言えるのかしら。彼らが持参した分厚いガラスのビアグラスと僕のグラスで、3方からがっちり乾杯したまでは、僕としても覚えているのです。これって、ビアホイ幻想?あるいは幻影のハノイかもね。

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