先日、講談社の「月刊現代」後継誌の「g2」の事に少し触れた。ともかく創刊号だからの理由だけれど、内容が充実していたわけですが、凄いと言えるのがふたつ。まず芥川賞作家柳美里の自分の子供に対する虐待の告白とカウンセラーとの対話が凄まじい。カウンセラーに「あなたは、あなたの子供さん(小六)を殺さないとは言えない」と作家柳美里が言われる。凄いよ。このドキュメント。彼女は自分の心の暗渠を今後も書き続けるとここで宣言している。もう一つは沢木耕太郎の翻訳ノベル「神と一緒に」だ。英国の作家トニー・パーカーと言う人の「殺人者の午後」飛鳥新社刊の中の一遍である。人間の心のもの凄く深いところまでおりていった表現者T・パーカーのドキュメントに近い小説なのです。沢木はこの翻訳作業に10年以上を結果要したようだ。さらに、「講談社ノンフィクション賞」の選考会の公開ドキュメントなど、全体に新しいモノへの「試み」の意気が感じられる。「g2」の2号目以降、どうなるのか気になるが、ノンフィクションのラジカルな成果の場として期待したい。
さて、久しぶりにベトナムについて書いてみるか。まあ「ベトナム私信」だから、ベトナムから書いて送ればいいわけで、別にベトナムの関連事項にこだわることも無いが、ハノイに年間100日以上は居る人間として、何か書かないとね。日本のテレビとか、CM関連だけじゃ・・ね〜。昔取った杵柄というか、そう言うことばっかりの50才までの仕事や生活だったから、どうしても気になることがメディア関係に多くなるんだ。
さあ、さて、オートバイのことでも行こう。
今から書くことのデータは、ベトナム政府に問い合わせたわけでもないし、日本工業会からデータを取り寄せた訳じゃあないので、僕の「目換算」と現地の「評判とか噂」が基本だから、まちがいがあったら、ごめんなさい。
まず、「HONDA」のおおさが凄い。言うまでもないね。僕の目換算だと少なくともハノイの市内を怒濤のように走ってる65%はホンダだね。なぜ、ホンダが多いかというと「伝聞」では、数年間使用後の下取りシステムが整備されており、例えば1000ドルのバイクが、2年乗って、800ドルで、中古に出せるということのようだ。ヤマハやスズキは中古システムがそうなっていないらしい。とくにヤマハは、デザインが格好いいので、若者に人気がたかいのだが、下取りの時点で、急激に価格が下がるので、そこいらへんが販売力のもう一つの高まりに繋がらないらしい。韓国のSYMとかいうブランドが、伸びている。耐久性はどうだか知らないが、極めて安価なので、台数の増加は勢いづいている。ついでに言うと、既に日本よりも携帯電話の所持率が上回ったベトナムの携帯のメーカの大半はノキアだ。これも目換算で80%ぐらいだろうと思う。ソニーエリクソンとか誰も持っていないもの・・。ホンダより、寡占率は大分上ですね。近々ドコモがベトナムにくるようですが、どのような魂胆か良く分かりませんね。いままで、まさにドメスティック企業として日本政府を通じて「拝外的」な動きしかしてこなかったのに。お陰で通信分野は、「日本は、ガラパゴス」と揶揄されていましたよね。
さて、かつて中国にホンダの偽物工場が幾多もあった。その中の最有力偽物工場は品質も高く、ホンダの技術者もその技術のレベルとホンダへのこだわりに舌を巻いていたとか。で、心の狭い日本の普通の企業なら、裁判に訴えるところを、さすが世界のホンダですね。創業者の技術者魂がいまだ、健在なのでしょう、「そんなにホンダが好きで、ここまでの技術があるんだったら、仲間になろうよ」というわけで、訴えるどころか、買収し傘下に治めた訳なのです。したがって、この会社からの偽物ホンダで溢れていた我がベトナムは、次の日からめでたく本物のホンダとなったので、ござい〜〜。というわけで、ベトナムのホンダは、もちろんホンダの工場もベトナム国内にできたこととあいまって、全部本物となり、ベトナム国民の数千万人が、毎朝安心して快適なホンダでご出勤ということになったのです。本当の話です。
洪水のようにドドドドッと走っているオートバイもよく見ると、いわゆるオートバイ系(120CC前後のものが多い)とスクーター系のふたつに分かれる。タイヤが大きいのがバイクで小さいのがスクーターと僕は見分けている。でいま、このスクーター系がかなり増殖。例によってぼくの目換算ですが、30%ぐらいにはなっているように思える。めざましいのがイタリアの名車VESPAだ。70万80万円するのに、凄い勢いで増えていますね。ホンダやヤマハも負けじとスクータータイプを出している。乗っている人の多くが若い女性です。オフィスウーマンが増えていることとパラレルなのでしょう。スカートを身につけたら、やっぱし、またがるオートバイじゃあないでしょうからね。ちょこっと座れるようなスクーターが断然機能的です。ベトナムの女性の騎乗スタイルは極めて姿勢がいい。背骨垂直で、両腕は地面とまったく平行に。乗り慣れないひとが、慎重に慎重に騎乗している風だが、そのキチンとした姿は、他の仕草同様にベトナム人の女性たちの几帳面さを現しているようで、見ていても微笑ましいものが在るんですよ。
昨日、ブオンと娘のリンと、ブオンの友人のファッションデザイナーのフックさんと四人でアヒル料理を食べに行くことになった。いつものことだ。ブオンのVESPAが今日使えないので僕とブオンは自転車で、リンはフックさんのバイクに乗せられて、出発。距離は高田馬場から、新宿ぐらいの距離で、自転車では、結構距離がある。その道程を思い切って自転車で走ってみたわけです。時間は18時。ラッシュ時だ。オートバイと自動車の津波というか、大洪水と言えばいいのか、その流れにはいると凄まじいぜ、ホントに。外から見るのとか車中にいるのとは、まるで違った。まず、トヨタランクルなどアウトドア風の4WDの曲線ボディー車が何台も何台もぶっ飛ばしながらグイグイ車線を変えてくる。この種の四駆がいま、わんさか花盛りなのである。
それに負けじとばかりに、2,3人が乗った若造のバイクが、また時には5人ぐらい乗ったガキのやんちゃ組が、ブイブイ飛ばしてくる。親父やおばちゃんのバイクも結構に軽業で、僕の中古自転車の脇をすり抜ける。それだけじゃあなく、僕を追い越し、僕の前でハンドルを切る。だから、僕の自転車の前輪が彼らの後輪に何度も触れそうになった。ホントに・・。生きた心地がしなかったぜ。一度、信号が赤になって、僕が先頭でストップしたことが在った。やおら後を振り替えると、闇夜に数千の色とりどりのヘルメットが鈍く光っている。多分、その後も同様にヘルメット軍団が隊列を組んでいるわけだから、気の遠くなる数のオートバイの群れが、アイドリングして、信号青を待つ。青になる前から、ブイ〜〜ンと数台が走り始める。つづいて、どっと全部が唸り出す。真っ青な僕も仕方ないので死ぬ覚悟でペダルに力を込めて発車した。
ブオンは時々僕の自転車に接近してきたり、追い抜いていたり、バイク騎乗と同様に姿勢良く背骨垂直にして、すいすい洪水の波間を泳いでいるように進んで行く。場所が場所だけに、緊張して一生懸命ペダルを漕ぐ僕を見ての「さあ、行くわよ〜」みたいなスマイルは、とっても凛々しく惚れちゃうなあ。で、アヒルづくし料理をたらふく食べて、例によってフックさんのお店にいって、リンとブオンがあれ着たり、これ着たりのファッションショー繰り広げた。時間は8時ぐらいなのだろうか、近所のおばさんや若奥さんも、パジャマ姿でお店に出入りして、とっかえひっかえして、2,3点買っていく人もいた。先日、上海では「パジャマで町に出ないように」とお触れが出たそうですが、ハノイでは堂々、毎日近所の買い物はパジャマ姿です。昨今はハノイは寒いし、イタリアン式のPコート(立て襟)が、売れ筋のようで、フックさんのデザインも、かなり冴えていて格好いいモノが多かった。
僕は東京でロードサイクルのような自転車で毎日走っているので、そんなに疲れはしなかったが、かなりの冒険譚であったのでした。ブオンは「あんな混んだ道に自転車で出たのははじめてだけれど、楽しかった」とか、ダックを頬張りながらお店で屈託もなく言っていたが、今日になって、流石疲れた様子であった。でも、優しさに溢れたスマイルは、今日も変わらない。嬉しいね。
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